研究プロジェクト

 科研費 基盤研究(B) 「光量子コンピューティング用窒化物半導体モノリシック光集積デバイスに関する研究」 令和5〜9年度 上向井 正裕
 科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)公募研究 「窒化物半導体光増幅器を用いた小型・高効率な青色単一波長高出力光源の開発」 令和4〜6年度 上向井 正裕
 科研費 基盤研究(A) 「強誘電体・常誘電体積層光導波路を用いた量子計算システムの開発」 平成29〜令和3年度  片山 竜二
 科研費 基盤研究(B) 「多光子励起過程を用いた次世代半導体材料の新しい深部イメージング」 令和2〜4年度 谷川 智之
 科研費 基盤研究(B) 「スクイーズド光発生用半導体レーザ励起窒化物半導体導波路型非線形光学デバイスの開発」 令和1〜4年度 上向井 正裕
 科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)公募研究 「窒化物半導体極性制御特異構造の形成技術の深化と物性・機能の制御」 令和1〜2年度 片山 竜二
 科研費 挑戦的研究(萌芽) 「結晶面方位変調テンプレートを用いた高スループットμLED製造プロセスの開発」 令和1〜2年度 片山 竜二
 科研費 挑戦的研究(萌芽) 「ハイパーラマン散乱による貫通転位の深部イメージング」 令和1〜2年度 谷川 智之
 科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)公募研究 「多光子励起フォトルミネッセンスによる結晶欠陥の非侵襲観察」 令和1〜2年度 谷川 智之
 科研費 新学術領域研究(研究領域提案型)公募研究 「窒化物半導体極性制御特異構造の非線形光学素子応用」 平成29〜30年度 片山 竜二
 科研費 挑戦的研究(萌芽) 「モノリシック共振器型ワイドギャップ半導体波長変換素子の開発」 平成29〜30年度 片山 竜二

高効率・小型な波長変換型未踏波長光源の開発

 化合物半導体を用いたデバイス開発の成果として,InGaN青色発光デバイスに関する日本人研究者のノーベル賞受賞は記憶に新しいですが,これまで本材料系の光学非線形性に着目した研究は皆無でした.これに対し本研究室では,この光学非線形性を利用した深紫外光源を提案しています.そもそも本材料系の光学非線形性は強誘電体LiNbO3に匹敵し,かつ光損傷耐性が高いため高出力化が可能です.実際に,光の伝搬方向に沿ってGaNの結晶方位を周期反転した光導波路を作製することで,光学異方性のない常誘電性半導体では不可能と言われてきた第二高調波発生に成功し[1],その波長変換効率が同帯域の強誘電体を凌ぐことを初めて実証しました.加えて,積層方向に結晶方位が反転した光導波路においても従来構造と同等の波長変換効率を実現できることを新たに提案し,ウエハ接合プロセス[2,3]やエピタキシャル成長プロセス[4]を用いたGaNの結晶方位反転技術を開発し,この新原理に基づく波長変換デバイスの原理実証に成功しました[5].さらに最近では,三重大学の三宅研究室が開発したスパッタアニール法によるAlNの結晶方位反転技術により作製した光導波路型デバイスを用いて,半導体デバイスからの波長229nmの遠紫外第二高調波発生に世界で初めて成功しました[6].この波長域の光は殺菌・消毒効率が高く,かつ皮膚等に無害なため人体に照射可能であることから,ワクチンやマスクに頼らない新たな感染症予防手段として注目されています.今後はこれらを高効率なInGaNレーザと集積することにより,超小型の深紫外光源の開発を目指します.これらのデバイスはガスレーザに代表される巨大で大電力を消費する光源をリプレイスできることから,革新的な省エネルギー化と応用領域の拡大につながります.

(a)周期極性反転GaN導波路.(b)積層極性反転AlN導波路の作製プロセス,(c)端面SEM像,(d)第二高調波の近視野像. [1] 石原他, Jpn. J. of Appl. Phys. 61 SK1020 (2022).
[2] 林他, Appl. Phys. Express 11, 031003 (2018).
[3] 横山他, Jpn. J. of Appl. Phys. 61, 050902 (2022).
[4] 村田他, phys. Stat. sol. (b) 260, 2200583 (2023).
[5] 横山他, Appl. Phys. Express 15, 112002 (2022).
[6] 本田他, Appl. Phys. Express 16, 062006 (2023).

新規な波長変換素子構造とその作製技術の開発

 これまで光学異方性のない常誘電性半導体では高効率波長変換は不可能と言われてきましたが,本研究室では,結晶方位の反転という結晶工学的に新規な特異構造を導入することで,波長変換の実証に成功しました.加えて,波長変換媒質と反射鏡をモノリシック集積した微小共振器を形成し,光を強く閉じ込め反射位相を調整することで,結晶方位の反転を用いずに高効率な波長変換が可能であることを提案しました.まず,c面GaN結晶を半導体微細加工技術を用いて形成した水平モノリシック微小共振器による,この新原理を用いた世界最小サイズの波長変換デバイスの動作実証に成功し[1],続いて,a面GaN結晶と誘電体多層膜反射鏡を用いて形成した垂直モノリシック微小共振器により波長変換効率が最大となるデバイス設計手法を確立しました[2].さらに,遠紫外波長域まで透明なSrB4O7結晶を用いたモノリシック微小共振器により波長234nmのコヒーレント光の発生に世界で初めて成功しました[3].今後も線形媒質・非線形媒質のハイブリッド導波路など,従来の常識や教科書を書き換えるような,新規な波長変換デバイス構造の提案と実証を狙います.
モノリシックGaN微小共振器SHGデバイスのSEM像.
左:デバイスの全体像,右:微小共振器の拡大像.

[1] 南部他, Appl. Phys. Express 14, 061004 (2021).
[2] 南部他, Appl. Phys. Express 16, 072005 (2023).
[3] 南部他, Opt. Express 30, 18628 (2022).

多光子励起顕微鏡を用いた結晶評価

 GaN系半導体を用いた光・電子デバイスの実用化にむけて,そのホモエピタキシャル基板材料の結晶品質は最重要要素です.本研究室では多光子顕微フォトルミネッセンスを用いて,結晶中の転位等の欠陥を非破壊三次元観察することで,近年ハライド気相成長法やNaフラックス法により作製される高品質・大口径バルクGaN基板の品質を更に引き上げるとともに,これらの基板を光集積デバイス・システムに応用することを目指しています.
GaN結晶の多光子PLマップ

ワイドギャップ半導体を用いた量子光源の開発

 近年の情報分野の発展に伴う情報処理速度向上の要求に反して,これまで50年間続いたトランジスタの小型化による古典コンピュータの速度向上は限界を迎えています.これに対し,量子コンピュータは量子超並列演算が可能であり,上記の速度飽和の解決策となります.そもそも量子情報はスピンや偏光等様々な量子状態で表現できますが,このうち「光」を用いる系は,緩和時間が長く量子計算に適するとして有力視されます.よって本研究室では,この計算機の実現に必須である量子もつれ光子対光源,スクイーズド光源などの量子光源を開発しています.具体的には,波長変換デバイスを用いて,一光子から量子相関を持つ二光子を発生します.またZnOなどのワイドギャップ半導体中の励起子分子と,光共振器中の励起子ポラリトン準位の間の共鳴散乱を用いても実現できます.更にワイドギャップ半導体量子ドット中の光学遷移を用いても,高温動作する量子光源が期待されています.これまで培ってきた薄膜結晶成長技術と微細加工プロセスを駆使し,これら種々の原理に基づく量子光源の開発を行っています.


(a)ブロッホ球による表現,(b)光パラメトリック下方変換のエネルギダイヤグラム,(c)共鳴ハイパーパラメトリック散乱のエネルギダイヤグラム, (d)励起子ポラリトン分散.

光源・光導波路集積型システムの開発

 量子干渉や量子もつれ計測といった量子事象の観測や量子計算の近年の原理実証実験には,大型レーザとバルク波長変換結晶,レンズ・反射鏡等により構成される自由空間光学系が用いられ,小規模な量子回路であるにも関わらずシステムのサイズが光学定盤一台分にわたり巨大で,安定動作が不可能であるという決定的な問題があります.つまり,これらを実用に供するには,小型集積化が必須です.そのため,本研究室では自由空間光学系に替えて,光導波路を用いた実装に挑戦します.励起用光源として深溝周期構造を装荷した波長可変単一モードInGaNレーザ,量子回路として電子線リソグラフィや多光子励起プロセスを駆使して形成する光導波路型の方向性結合器,およびこれと電界駆動型位相変調器を組み合わせて構成するマッハツェンダー干渉計を用いて,高品質大口径基板上への集積を狙います.このようにして実用化への糸口を拓くことにより,気象災害予報,新材料開発,創薬・遺伝子解析や人工知能など,暮らしの安全・材料科学・医療・産業の発展への貢献を目指します.


上:深溝DBR InGaNレーザ.
下:光導波路型GaN方向性結合器.

新規光学非線形性材料の探索

 量子コンピュータを構成するデバイスには,能動的かつ自己保持する機構に加え,更なる高効率化が必要です.この要件を全て満たす新規なデバイス構成材料の候補として,従来強励起化で光学吸収を呈するために問題となっていた不定組成比欠陥を低減した強誘電体や,マルチフェロイック材料の巨大光学非線形性に着目しています.特に後者の波長変換効率は,従来材料と比べ桁違いに大きいと報告され,これはスピン秩序が形成する電子分極と光がより直接的に作用することによると考えられます.特に近年,同種材料で室温マルチフェロイシティが報告され,磁気秩序を起源とする室温巨大光学非線形性が期待されます.エピタキシャル製膜技術の開発とその物性解明に加え,室温動作し再構成可能な量子回路の実現を目指します.

学位論文題目一覧

令和4年度 修士論文研究

 中原 智裕 広帯域光子対発生に向けたGaN面発光型微小共振器デバイスに関する研究
 西垣 颯人 MgO添加定比組成LiTaO3を用いた紫外光発生集積波長変換デバイスに関する研究
 西河 巴賀 多光子励起フォトルミネッセンス法によるGa2O3結晶の発光特性評価と欠陥観察に関する研究
 長谷川 大輔 DCパルススパッタリング法を用いたGaNの選択成長に関する研究
 本田 啓人 横型擬似位相整合HfO2/AlNチャネル導波路による遠紫外第二高調波発生
 松下 就哉 InGaN波長可変単一モードレーザの高出力化に向けたプロセス改善
 村田 知駿 GaN極性反転構造およびGaN/AlN DBRの有機金属気相成長技術の開発
 安田 悠馬 モノリシック集積マイクロLEDに向けたGaN面方位変調技術に関する研究

令和4年度 卒業論文研究

 石井 由也 GaN転位種識別のための多光子励起フォトルミネッセンス像の高速画像処理技術の開発
 南野 圭佑 GaN/AlN DBRを有するSiC基板上InGaN LEDに関する研究
 菅野 竜輝 電界印加型GaN導波路マッハツェンダ干渉計の作製と光変調特性評価
 村井 隆佑 Mg添加GaN及びInGaNのDCパルススパッタリング成長と評価
 百崎 怜 パターンウエハ接合を用いたAlN極性反転リブ導波路型第二高調波発生デバイスに関する研究

令和3年度 修士論文研究

 池田 和久 酸化AlN層を用いたGaN極性反転積層構造の有機金属気相成長に関する研究
 梅田 颯志 遠紫外光発生に向けたAlN導波路型第二高調波発生デバイスに関する研究
 小野寺 和希 高純度ターゲットを用いたInGaN LED構造のDCパルススパッタリングに関する研究
 塚越 真悠子 多光子励起フォトルミネッセンス法によるGaN結晶欠陥の非破壊評価
 久田 雄太 窒化物半導体光量子デバイス応用へ向けたGaNマッハツェンダ干渉計に関する研究
 横山 尚生 GaN横型擬似位相整合第二高調波発生デバイスに関する研究
 吉田 新 マルチファセット構造を用いたマルチカラーInGaN LEDの有機金属気相選択成長に関する研究

令和3年度 卒業論文研究

 亀井 拓哉 GaN光AIチップ応用へ向けたGaN方向性結合器に関する研究
 楠井 大晴 InGaNレーザのPd/Au p側電極の低抵抗化に向けた作製プロセスの検討
 俵 悠弥 HfO2/AlN横型擬似位相整合導波路を用いた深紫外第二高調波発生デバイスの作製
 畠中 祐喜 ZnO/ZnMgO多重量子井戸微小共振器作製に向けたZnO薄膜のパルスレーザ堆積
 古川 裕也 GaNヘテロエピタキシャル膜の表面活性化接合に向けた光学的曲率測定手法の検討
 村瀬 健太郎 InGaNマイクロLEDに向けた素子サイズと動作特性の関係

令和2年度 修士論文研究

 大西 優奈 RGB発光InGaN LED構造のDCパルススパッタリング成長に関する研究
 田辺 凌 光デバイス応用に向けた薄膜転写によるGaN面方位変調技術に関する研究
 冨林 滉 電界印加型位相シフタを有するGaN光導波路マッハツェンダ干渉計に関する研究
 永田 拓実 広帯域光子対発生に向けたGaN導波路型微小共振器デバイスに関する研究
 野呂 諒介 MgO添加定比組成LiTaO3を用いた強励起擬似位相整合波長変換デバイスに関する研究
 樋口 晃大 深溝周期構造を用いたInGaN波長可変単一モードレーザに関する研究

令和2年度 卒業論文研究

 寺田 陸斗 多光子励起フォトルミネッセンス法とラマン分光法を用いたGaN結晶中の転位種の識別
 本田 啓人 AlN横型擬似位相整合深紫外第二高調波発生デバイスの短波長化に関する研究
 松下 就哉 Si基板上InGaNファブリ・ペローレーザの作製と評価
 村田 知駿 有機金属気相成長法を用いたGaNエピタキシャル極性反転技術の開発
 安田 悠馬 GaN薄膜の多段転写に向けた平坦性を維持するエッチングプロセスの検討

令和元年度 修士論文研究

 今井 翔吾 DCパルススパッタリング法によるGaN薄膜のヘテロエピタキシャル成長に関する研究
 紀平 将史 量子情報処理デバイスのための電界印加型GaN光導波路マッハツェンダ干渉計に関する研究
 小松 天太 スクイーズド光発生に向けたGaN横型擬似位相整合導波路型波長変換デバイスに関する研究
 田附 大貴 周期的スロット構造を用いたInGaN単一モードレーザに関する研究
 松井 裕輝 量子もつれ光子対発生に向けたZnO多重量子井戸微小共振器の設計とミストCVD法による試作
 森岡 佳紀 窒化物半導体導波路型第二高調波発生デバイスのための入力グレーティング結合器に関する研究
 山内 あさひ 2層極性反転積層AlN導波路を用いた深紫外第二高調波発生デバイスに関する研究

令和元年度 卒業論文研究

 梅田 颯志 深紫外光発生に向けたAlN導波路型微小共振器第二高調波発生デバイスの設計
 塚越 真悠子 多光子励起フォトルミネッセンス法によるGaN結晶の貫通転位観察とその応用
 前田 睦人 GaN導波路型方向性結合器の波長偏光選択分波応用
 横山 尚生  GaN表面活性化接合条件最適化と極性反転積層構造の形成
 吉田 新  有機金属気相成長法によるScAlMgO4基板上への格子整合InGaN薄膜成長

平成30年度 修士論文研究

 小野寺 卓也 表面活性化接合を用いたGaN薄膜転写技術の開発
 楠本 壮   深溝周期構造を用いた波長可変単一モード半導体レーザに関する研究
 南部 誠明  GaNモノリシック微小二重共振器型第二高調波発生デバイスに関する研究
 三輪 純也  電界印加型GaN光導波路マッハツェンダ干渉計に関する研究
 矢野 岳人  量子相関光子対発生に向けたZnO/ZnMgO多重量子井戸微小共振器に関する研究
 山口 修平  深紫外光発生用横型擬似位相整合AlN導波路波長変換デバイスに関する研究

平成30年度 卒業論文研究

 池田 和久  横型擬似位相整合GaN導波路波長変換デバイスの設計と試作
 大西 優奈  Mg添加GaN薄膜結晶のDCパルススパッタ成長と特性評価
 田辺 凌   表面活性化接合とSi基板除去によるGaN積層構造の歪と接合界面の評価
 冨林 滉   電界印加型光導波路デバイスのためのp型・n型透明導電膜の成膜と特性評価
 永田 拓実  GaNモノリシック微小二重共振器型第二高調波発生導波路デバイスの設計と作製
 野呂 諒介  Mg添加定比組成LiTaO3を用いた擬似位相整合第二高調波発生デバイス
 樋口 晃大  InGaN量子井戸ファブリ・ペローレーザの光閉じ込め構造改善とコンタクト抵抗低減

平成29年度 卒業論文研究

 今井 翔吾 窒化ガリウム薄膜結晶のスパッタリング成長と構造特性評価
 田附 大貴 InGaN量子井戸リッジ構造ファブリ・ペローレーザの作製と評価
 森岡 佳紀 入力結合効率向上を目指したAlN光導波路型グレーティング結合器
 紀平 将史 マッハツェンダ干渉計のためのGaNストリップ光導波路型方向性結合器の設計と作製
 山内 あさひ 横型擬似位相整合許容幅拡大を目指したAlNテーパ導波路波長変換デバイスの設計

平成28年度 修士論文研究

 井口 稜太 イオンスライスLiNbO3結晶における周期分極反転構造の作製と評価手法に関する研究
 山下 諒大 GaAsP歪量子井戸高次結合ディープエッチDBRレーザと2波長集積レーザへの応用に関する研究

平成28年度 卒業論文研究

 小野寺 卓也 極性反転積層導波路型深紫外第二高調波発生デバイスにむけたAlN表面活性化接合技術の開発
 楠本 壮 作製プロセスを簡略化した周期的スロット構造GaAsP歪量子井戸単一モードレーザ
 南部 誠明 GaNモノリシック微小二重共振器型第二高調波発生デバイスの設計と作製
 三輪 純也 光導波路型マッハツェンダ干渉計のためのGaN方向性結合器の設計と作製
 山口 修平 横型擬似位相整合AlN光導波路第二高調波発生デバイスの設計